なぜ日本の洗面所は美しくないのか? 部屋の中でノイズにならない、「心も豊かになる」ものづくりについてEPEIOSさんと考えた #52
こんにちは、早です!
いつもは私が1人でぶつぶつ考えたことを書いているこのレターですが、今回はゲストをお迎えして、インテリアやものづくりについてお話しをする、というちょっと違ったスタイルでお届けします。
私が日本の「普通の洗面所」に、こんなにも満足できないのはなぜなのか? という話題から始まって、生活空間に置く製品のあるべき姿とは? というテーマに広がり、それを作り出すための製品づくりの哲学の話まで。
洗練されたデザインと優れた機能性をもつ電動歯ブラシが大人気のブランド、「EPEIOS」さんと一緒に、良き空間について、良きデザインについて、そして良きものづくりについてのあれこれを語ります。
対談のお相手:EPEIOS JAPAN
EPEIOS JAPAN 代表 駒崎:EPEIOS JAPAN の駒崎と申します。我々は2020年3月に立ち上がったばかりのブランドです。日本的な視点やものづくりを大切にしながら、暮らしに役立つプロダクトを開発し展開しているブランドです。
早さん、「海外みたいにセンスのある部屋をつくるためのレター」の読者さん、よろしくお願いいたします!
空間全体の「コンセプト」が存在しない、日本の普通の洗面所
駒崎:早速ですが、SAKIさんは過去たくさん引越しをされてきたとお聞きしています。これまで数々の家に住んできた中でSAKIさんが洗面所に感じたことをいろいろとお聞きしたいです。
早[SAKI]:現在の家を購入・リノベーションして引っ越したのが8回目の引越しなんですが、それまで賃貸住宅に住んでいてもっとも不満が大きかったのが、洗面所のデザインでした。
最初のほうの部屋では、リビング、ベッドルーム、ダイニングスペースといったメインの居室について考えるので手いっぱいで、洗面所のことまで気にしていませんでした。でも、2回目、3回目と引っ越すうちに、だんだんコーディネートのコツを掴んできて、考える余裕が出てきた。そうすると、今までは気にならなかった場所も急に気になりはじめるんですよ(笑)。
でも、どの賃貸物件の洗面所もだいたい同じようなデザインの「普通の洗面所」で、しかも空間そのものに占める既存設備の存在感が大きすぎて、他のスペースに比べてインテリアで自分好みにするのが難しかったんです。
おしゃれさに全振りしているはずのデザイナーズマンションに住んだ時でさえ、洗面所のデザインは「無個性で、悪目立ちしないもの」という方向性で、悪くはなかったけれど魅力的な空間とは言えないものでした。
海外の洗面所の写真を観察していると、うっとりするような個性的で美しい洗面スペースがたくさんあります。でも、日本の家の洗面所はだいたい同じような無機質なものが多くて……。
欧米はバスルームがお風呂・トイレ・洗面で1部屋になっていて、機能的な場所であると同時にひとつの居室のようにデザインする、という作り方の大きな違いはあるものの、それにしてもこのデザインバリエーションの差はすごいなと。
なんでこうなんだろう? と考えてみて気づいたのが、日本の標準的な洗面台は空間全体と一緒に0からデザインされるものではなく、独立した「箱」として後から取り付けるだけのものになっている、ということでした。
洗面所づくりは、あらかじめ作った洗面スペースの中に、取ってつけたように箱型の既製品の洗面台を置いて終わり。
もうちょっと自由度が高いケースでも、洗面台はこれ、シンクはこれ、水洗はこれ、鏡と収納はこれ、というように、あらかじめ決まった型の中でパーツをちょっとカスタマイズできるだけ、というのが一般的です。
モノを選ぶことの手前にあるべき「空間全体のコンセプト設計」が存在せず、既存のパターンに当てはめていくだけなので、みんな似たようなものになってしまうんだと思います。
本当は、「洗面台の設備、どれにしますか?」 と選ぶ以前に、そもそも家全体のスタイルが何なのかから始まって、洗面台はテーブル型なのか収納型なのか、扉はつけるかつけないか、ボウルの置き方はどこにどんなふうに、蛇口の位置は、鏡は四角か丸か、縦長か横長か、照明はブラケットを2個横に並べるのか、上に一つなのか、間接照明にするのか……本当はもっともっといろんなデザインの可能性があるはずなんですよね。そしてそれを決めるためには、最終的に「どんな空間を目指すのか」という全体をまとめるコンセプトが必要です。
過去7回の引越しでこれに気づいて、コロナの時期に思い切って家を買ってリノベーションした時は、リノベーション会社と相談しながら大部分を自分でデザインしました。
単純なパーツの組み合わせではなく、0から造作した洗面台を作っていただいて、やっとこれなら私の許せる洗面所だと思えるものができあがりました。
リノベーションした自宅の洗面所
色使いやフォルムでインテリアトレンドを捉えた電動歯ブラシ
駒崎:理想の洗面所に辿り着くまでに、8回もの引越しが必要だったんですね。
そんなこだわりの洗面所で、差し上げた EPEIOS の電動歯ブラシ「OKare! ET003」を使っていただいた感想を詳しくお聞かせいただけますか?
早[SAKI]:第一印象として、まず、箱! Apple製品を思い出すような、スタイリッシュでワクワク感あるパッケージデザインだなと思いました。
いただいたグレージュ系のカラーは、最近のインテリアトレンドにフィットする色合いで素敵でした。インテリアをグレージュのトーンに揃えるコーディネートは今とても流行しているので、いちばん広く刺さるカラーだと思います。
私はみんなが好きなものとは違うものにしたい、というひねくれた好みなので(笑)カラフルなものが好きで、サイトで見たグリーンやオレンジなど他のカラーもすごくいいなと思いました。今の海外のインテリアカラーのトレンドはアースカラー(濃いめで鮮やかなグリーンやオレンジ)を使うカラフルなものに移りつつあるんですよ。
日本で人気の色と、世界のトレンドの色、どちらも揃っていて、広く空間づくりの「今の気分」みたいなものをうまく捉えてカラー展開されているのかなと感じました。
駒崎:ありがとうございます。実際に置いてみた感想や使い心地はどうでしたか?
これまでは海外製の価格も結構高い電動歯ブラシを使っていて、性能は良かったんですが、いくつか不満があって。
まず、充電器が邪魔!
立てかけておくだけでワイヤレス充電できるガラスのグラス型充電器で、それなりに考えてあるデザインではあるのですが、いつも見ていたいほど美しいわけではない。そういう中途半端なものが洗面所にずっとあるのが気になっていました。
EPEIOSさんの電動歯ブラシ「OKare! ET003」は、潔くタイプCで充電するデザインで、充電器を常に置いておく必要がないのは新鮮でした。
使用感も、ちゃんと磨けるのに、磨き心地がすごく優しくてよかったです。
以前の歯ブラシは磨くときに振動が強すぎて歯磨き粉がピュン! って飛び散るので、せっかくかわいい鏡を置いたのに歯磨きのたびにめちゃくちゃ汚れる(笑)。掃除が面倒くさいから口を閉じたままよく見ずに磨いて、結果として磨き残しが出て……。「あれ、ちゃんと磨きたくて高い電動歯ブラシにしたのに逆効果じゃん!! 」って思って。
EPEIOSの電動歯ブラシは、デザインの感度の高さと機能性をうまく両立させている、バランスのいい製品だなと思いました。
駒崎:パッケージデザインから使用感まで、細かく観察していただいて嬉しいです。充電の設計や、カラーバリエーション、使い心地など、すべて製品開発時に注力した点ですが、特に充電器を置かないデザインにはこだわっていました。
洗面所って、いろんなものを置くじゃないですか。男性なら髭剃りとか、バリカンとか、女性ならヘアアイロンとか。それぞれの製品で充電器が違うと電源まわりがごちゃごちゃになってしまって、それがすごく嫌なので、私は必死にタイプC充電の製品を探して揃えています(笑)。
技術的にも、使わない時にずっと充電しっぱなしにするのはバッテリーが劣化するからよくない、というのもあって、「OKare! ET003」はワイヤレス充電は諦め、代わりに最新のバッテリーを搭載して一度充電したら約半年間充電なしで使えるようにしました。
早[SAKI]:充電でごちゃごちゃになって嫌、というの、すごくわかります。
充電されている姿って、美しくないんですよね。だから、なるべくそれを見せなくていいように製品を作ってくれ〜! って思っています。どうやったって美しくないのだから、そこは潔く諦めてほしいというか……。
諦めるところを明確に決めてフォーカスを絞っている製品って意外とないので、「ワイヤレス充電は諦めました」っていうのは好印象です。
駒崎:ありがとうございます。私たちは「心も豊かになる製品を」をブランドコンセプトとしているので、機能の追求だけではなく、使った時に楽しくなるもの、部屋の中に出しっぱなしにしても大丈夫で、むしろ見せておきたいと思えるようなもの、というのを意識して作っています。
電動歯ブラシはガジェットライクな見た目が多いのですが、そうではないものを目指しました。デザインのインスピレーションは「ギリシャ神殿の柱」からきていて、それと曲線のラインを組み合わせたデザインになっているんです。
早[SAKI]:ああーその感じ、すごく伝わります。どこかクラシックな雰囲気もありつつ、「曲線」がトレンド感を出していますよね。
今、世界的にインテリアでは丸い形がメインストリームなんです。我が家は家全体で海外の雰囲気をイメージしてコーディネートしているので、洗面所の鏡や照明にも丸い形を意識的に選んでいます。
「OKare! ET003」はそういう住まい全体の雰囲気に調和するフォルムになっていて、とても愛着を持てる製品だと思います。
駒崎:曲線がトレンド、と知っていたわけではないのですが、ボタンも丸い形に後から変えたんですよ。それと、カラー展開も、実はお渡ししたグレージュ系が最後に作った色なんです。
シンプルなカラーとしては白黒があったので、初めはそれで十分だろうと考えていたのですが、販売してから女性のバイヤーさんから「もっと部屋に馴染むやわらかい色が欲しい」という意見があって。
早[SAKI]:そうなんですね。ちょうど我が家の洗面所で採用したタイルもグレージュ系で、狙ったようにぴったりの色合いでした。一度デザインして終わりではなく、作りながら敏感に世の中の感性を取り入れて変化させていったんですね。
EPEIOSの電動歯ブラシと洗面所タイル
デザイン・機能性・価格のちょうどいいバランス
早[SAKI]:製品づくりでは、デザインか機能どちらかだけに偏ってしまう、というケースが多い気がするのですが、EPEIOSさんの製品はちょうどいいバランスのものが多いと感じます。どういったことを意識されているのでしょうか?
駒崎:大手メーカーさんの家電製品は、機能面の進化が本当にすごいんです。歯ブラシも、アプリと繋いで磨いた結果をチェックできる、という製品なんかもあって。でもその分価格も高くて、手が出なかったりする。
逆に、価格が手頃なものを選ぼうとすると、今度は機能までチープすぎるものになってしまうことも多くて、ちょうどいい製品がなかなかないなと感じていました。
日用品には、そこまでハイスペックなものは求めていないけれど、毎日気持ちよくきちんと使い続けられる、ということを大事にしている人がほとんどだと思います。
私たちは、20代後半〜30代くらいの、自分の暮らしを見直す余裕が出てくるタイミングに差し掛かった若い方でも手に取りやすい価格を維持したまま、必要十分な機能性とデザインを両立した製品を作っていきたいと考えています。
早[SAKI]:デザイン・機能・価格のバランスはインテリアや住宅設備の商品でも同じ悩みがありますね。
日本の製品はスペックに全振りしすぎていて……。そんなに機能はいらないから、デザインを選ばせてくれよ!! って思うんだけど、そもそも選択肢が少なすぎるし、仮にあったとしてもオプションでものすごいお金がかかることも多いんです。
じゃあ、「そこまで高いスペックは求めず、ほどほどの価格でデザインが気に入るものを買いたい」、と思って探してみると、最近はアジアの商品に行き着くことがよくあります。
Webサイトはおしゃれで、素敵な写真を載せて魅力的なデザインのものを安く売っていて、ぱっと見だと「いいかも?」ってなるんですよ。でも、よく調べていくと、「あれ? これあの有名ブランドのデザイナーズ家具のパクリだぞ??」って気づいたりする。さらに、実際買ってみると、そもそもちゃんと届かなかったり、届いてもすぐ壊れたり……。
アジアの商品ってすごく可能性はあると思うんですが、まだまだデザインに対する権利意識が低いという問題もあるし、品質も安かろう悪かろうになっているケースもあって、安心して買えるものは少ない。
だから、日本の会社さんで、デザイン・機能・そしてできれば価格、のバランス感覚を重視してものづくりをしてくれるところがあると嬉しいなという想いがあります。
あえて「別ジャンル」のデザイナーを起用した理由とは?EPEIOS のものづくりの独自性
早[SAKI]:「心も豊かになる製品を」という EPEIOS のものづくりの考えについて、もう少し詳しくお聞きしたいです。製品のデザインはどういうプロセスで行っているのでしょうか。
駒崎:私たちは、単に商品を提供するだけでなく買った後に広がるストーリーを大切にしています。
オーブンを例に挙げると、このオーブンを買うことで、調理中の様子をお子様と一緒に見ながら楽しんだり、家族で料理を作る時間が増えたりと、使った先に毎日が豊かになるような製品を作りたいんです。
そのために、デザイン面でも独自のアプローチを取っています。
私たちのフラッグシップシリーズであるFoElem(フォーエルム)シリーズでは、一般的なプロダクト系のデザイナーではなく、エルメスなどの高級ブランドで活躍されているデザイナーのブノワ・ピエール エメリー氏とコラボレーションしました。
ブノワ・ピエール エメリー氏(左)
早[SAKI]:なぜ、プロダクト系のデザインではなくファッションを専門とするデザイナーさんの起用だったんですか?
駒崎:エンジニアや工業デザイナーの目線で物作りをしてしまうと、デザインのパターンが決まってきてしまうと思ったんです。
例えば加湿器なら、箱型で、上に水を注ぐタンクがあって、下にミストを発生させるユニットがあって……とういうように。そうやって既存の型にハマってしまうのを避けたかった。
実際に、ブノワ・ピエール エメリーさんからは本当に斬新なアイデアが出てきました。「これどうやって作ろう?」というようなものもたくさんあって。
それこそが期待していたことではあったのですが、形にするのはすごく大変でしたね。
早[SAKI]:デザイナーが作る側に配慮しすぎないことが大事だったんですね。でもたしかに、作り上げるのは大変そうです。そこから製品として出来上がるまでにはどういう経緯があったのでしょう?
駒崎:製品開発では、ブノワさんだけでなく、家電系のデザイン経験が豊富なダミアン・オーシュリバンさんともパートナーを組み、デザイン性と実現可能性のバランスを探りながら作り上げていきました。
早[SAKI]:なるほど、別ジャンルのデザイナーと、プロダクトのプロのタッグによる開発だからできたんですね。
デザイン面で、既存の製品とは違う部分というのは実際の製品のどういうところに現れているんですか?
駒崎:まず、製品のコンセプトそのものの背景に、ブノワさん独自の世界観があります。
FoElemシリーズは「4 Elements」の略で、火・水・土・空気という4元素をテーマにしています。
加湿器のデザインでは、タンクと吹き出し口の高さを揃えることで、自然界の循環を表現しています。地上に降り立った水が、また海から蒸発して戻っていくような、時の流れを感じさせるデザインなんです。
素材選びでも、「タンクの部分を樹脂にすると作るのは簡単になるけど、水を入れた時の光の透け方が美しくないから」という理由でガラス製にこだわっているなど、部屋の中に置くインテリアとして、きちんと空間に馴染む美しさを細部まで追求して出来上がった製品です。
部屋の中でノイズにならない、見て嬉しいモノが増えてほしい
早[SAKI]:どの製品にも、オブジェのような存在感がありますよね。
EPEIOSさんが繰り返しおっしゃっている、「心も豊かになる製品を」というコンセプトは、本当にこれからのものづくりで重要なことだと思います。
私にとって、部屋の中のモノって明確に2つに分かれているんですが……見て嬉しいものと、そうでないもの(笑)。
日本の家の中は、見たくないようなものが多すぎる。いろんな製品のデザインが見て嬉しいものになっていないから、部屋の中でノイズになっていて、だからすぐ隠したくなるんです。
日本人が部屋のことをテーマに話す時、すぐに「収納、収納」っていうのも、ノイズになるモノばっかりだからしまい込んで見えないようにしよう、っていうことなんじゃないかなと。
だけど、その収納製品自体もノイズになるデザインだったりするので、さらにノイズが増えるだけで、片付けても片付けても永遠にスッキリできない。そうしてモノに圧迫されて、心が疲弊していく……。極端な断捨離ブームもそういう繰り返しに疲れた結果だと思うんです。
そもそも、見て嬉しい、心が喜ぶようなデザインのモノばっかりだったら、完璧に片付いていなくても、そんなに嫌な気持ちにならないんですよ。我が家も普段はだいぶ散らかっていますけど、好きなモノで溢れているだけなのでそこまで気にならない。
そういう「心を豊かにする」製品がちゃんと増えていって、家の中で邪魔者扱いされるような製品は作られなくなって、「モノが無駄に買われて仕舞い込まれて結局捨てられる」みたいなことがない世界が来たらいいなと願っています。
今回、EPEIOS さんのものづくりへの姿勢を伺って、同じようなことを考えて製品開発をしている会社があったんだ! というのを知れて嬉しく思いました。
駒崎:ありがとうございます。これからも、使う人の心に寄り添った製品づくりを続けていきたいと思います。
早[SAKI]:楽しみにしています! そういう輪をもっと広げていきたいです。今日の製品開発のお話がすごく面白かったので、ぜひもっと裏話も発信してほしいです。
駒崎:そこは苦手とするところなので、頑張ります。いろいろと伝えたいことはあるのですが、製品に詰め込んだ想いが多すぎて、あまりうんちくを言いすぎると鬱陶しくならないかと心配で……。
早[SAKI]:今回を機に、少しずつ小出しにしていきましょう(笑)。本日はありがとうございました!
※本記事は、株式会社EPEIOS JAPANと theLetter (株式会社OutNow)と「海外みたいにセンスのある部屋をつくるためのレター」の認知拡大を目的とした共同企画・コラボレーションです。三者間で金銭的なやり取りは一切ございません。著者は電動歯ブラシ「OKare! ET003」のギフティングを受けております。
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